2015
03/17
牛飼いだから・・・・
希望の牧場
売れない牛を生かしつづける。
意味がないかな。バカみたいかな。
いっばい考えたよ。
なあ、「牛飼い」って、しってるか?
牧場で、牛の世話して、くらしてる。それが牛飼いだよ。かんたんだろ?
でも、あのでっかい地震のあとは、かんたんじゃなくなった。
うちの牧場は、原子力発電所の近くにあったからだ。
2011年3月11日。東日本大地震の約1時間後、その原子施設をつなみがおそった。
事故がおこった。放射能が広がった。みんなが逃げた。
町にはだれもいなくなった。あっというまにな。
でも、逃げられなかった動物たちは、のこってたんだ。
牛もぶたも、とりも、犬も、ねこも・・・・・世話してくれる人間をなくした動物たちは、つぎつぎと死んでった。
そのころ、うちの牧場には330頭の肉牛がいた。
放射能をあびた牛たちは、もう食えない。食えない牛は売れない。
いちもんの価値もなくなったってこと。それでも、生きていりゃのどが渇くから、水くれ、水くれって、騒ぐんだ。
エサくれ、エサくれって、鳴くんだよ。
誰もいなくなった町の牧場に、オレは残った。そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。
だってオレ、牛飼いだからな。
まったく、牛たちは、よく食うんだ。オレの10倍もでかい体で、いつもエサをさがしてる。
エサ食って、クソたれて、
エサ食って、クソたれて・・・・・
毎日、それだけだ。ま、それが肉牛の仕事だもんな。
たくさん食って、うまい肉になる。牧場の牛たちは、そのために生きて、死ぬ。
それがこいつらの運命。人間がきめた。
そして、原発事故によって、人間が狂わせた。
4月。原発施設から半径20キロ圏内が「立ち入り禁止区域」になった。
うちの牧場はその20キロ圏内にある。放射能に汚染された土地。入っちゃいけない土地。
「もう、ここには住まないでください」さっそく、役人が言いにきたけど、オレは住みつづけたよ。
「だって、牛にエサやらないと。オレ、牛飼いだからさ」
5月こんどは、20キロ圏内にいる牛を「殺処分」にすることが決まった。
世話をする人間がいない牧場で、牛たちはいずれ餓死をする。
牧場から逃げた牛が畑を荒らしたり、やっかいなこともある。
どうせもう食えない牛だし、殺すことにしたってこと。
「牛たちの殺処分に同意してください」
また役人がきたけど、オレは同意しなかったよ。
うちのほかにも、殺処分をこばんだ牧場がある。
でも、ほとんどの牧場主は、しょうがなく同意した。
その人たちから、オレ、言われたよ。
「オレらは、泣く泣く、牛を殺した。なんでお前だけ生かしてる?」
その気持ちも、オレはわかる。ほんとは、だれだって、殺したくなかった。
大事に育ててきた牛だ。涙をのんで、国の決定に従ったんだ。
でも、オレはそうしなかった。
売れない牛を生かしつづける。意味がないかな。バカみたいかな。いっぱい考えたよ。
「オレ、牛飼いだからさ」
当たり前みたいに言いながら、その当たり前のことを、毎日、一生懸命、勝ちとってる。
意味をなくしたのは、牛だけじゃないぜ。
町のみんなが住んでた家。子どもたちが通ってた学校。おいしい米がとれる田んぼ。
魚の泳ぐ海や川。きれいな空気。じまんの星空。
すべてが意味をなくした。
そこに、目に見えない放射能があるってだけで、町のみんなの故郷がきえた。
売れない牛に、毎日、エサをやる。
儲からないのに、金だけかかる。栄養があるエサはもうやれないから、弱い牛は死んじまう。
それでも、いま、うちの牧場には360頭もの牛がいるんだ。
原発事故のまえよりもふえてる。ふしがだろ?
答えは、かんたん。近くの牧場主からたのまれた牛や、迷子になってた牛を、うちの牧場で引き取ったんだ。
少しづつ、協力してくれる人たちもあらわれた。
福岡。広島。岡山。大阪。京都。北海道。
いろんな所から人がくる。牛たちの世話を手伝ってくれる人。
エサやお金を寄付してくれる人。
大型バスで牧場を見学にくる人。
「希望の牧場」。
いつしか、うちの牧場は、そんなふうに呼ばれるようになった。
人間がきえた土地に、何百頭もの牛が生きてる。
もりもりエサ食って、元気に動きまわってる。
その姿に「希望を感じる」って人もいる。
希望なのかな。希望になるなら、いいけどな。
けど、弱った牛が死ぬたびに、ここには絶望しかないような気もする。
希望なんてあるのかな。意味はあるのかな。
まだ考えてる。オレはなんどでも考える。
一生、考えぬいてやる。な、オレたちに意味はあるのかな?
人間の影や声、足音をなくした町。それでも、春がくれば花がさく。
夏がくればホトトギスがうたう。秋がくれば紅葉が燃える。
冬がくれば雪もよう。
美しい景色はかわらない。
海があって、山があって、いいところなんだ。オレの町。
いつかまた、人間の影や声がもどってくるのかな。
希望はあるのかな。
中略・・・・・
明日もエサをやるからな。もりもり食って、クソたれろ。
遠慮はいらねえ。おまえら、牛なんだから。
オレは牛飼いだから、エサをやる。
決めたんだ。おまえらとここにいる。
意味があっても、なくてもな。
前文をご紹介できなくて残念です!
この文は、福島第一原子力発電所の警戒区域内に取り残された「希望の牧場・ふくしま」のことをもとにつくられた絵本です。今、餌不足の問題が深刻化していくなか、今も牛たちを生かすための取り組みが続いています。
人間が犯した最大の過ち・・・・原子力。未だにその過ちに両目をつむり、同じ過ちを繰り返そうとしています。
福島を忘れないでください。
売れない牛を生かしつづける。
意味がないかな。バカみたいかな。
いっばい考えたよ。
なあ、「牛飼い」って、しってるか?
牧場で、牛の世話して、くらしてる。それが牛飼いだよ。かんたんだろ?
でも、あのでっかい地震のあとは、かんたんじゃなくなった。
うちの牧場は、原子力発電所の近くにあったからだ。
2011年3月11日。東日本大地震の約1時間後、その原子施設をつなみがおそった。
事故がおこった。放射能が広がった。みんなが逃げた。
町にはだれもいなくなった。あっというまにな。
でも、逃げられなかった動物たちは、のこってたんだ。
牛もぶたも、とりも、犬も、ねこも・・・・・世話してくれる人間をなくした動物たちは、つぎつぎと死んでった。
そのころ、うちの牧場には330頭の肉牛がいた。
放射能をあびた牛たちは、もう食えない。食えない牛は売れない。
いちもんの価値もなくなったってこと。それでも、生きていりゃのどが渇くから、水くれ、水くれって、騒ぐんだ。
エサくれ、エサくれって、鳴くんだよ。
誰もいなくなった町の牧場に、オレは残った。そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。
だってオレ、牛飼いだからな。
まったく、牛たちは、よく食うんだ。オレの10倍もでかい体で、いつもエサをさがしてる。
エサ食って、クソたれて、
エサ食って、クソたれて・・・・・
毎日、それだけだ。ま、それが肉牛の仕事だもんな。
たくさん食って、うまい肉になる。牧場の牛たちは、そのために生きて、死ぬ。
それがこいつらの運命。人間がきめた。
そして、原発事故によって、人間が狂わせた。
4月。原発施設から半径20キロ圏内が「立ち入り禁止区域」になった。
うちの牧場はその20キロ圏内にある。放射能に汚染された土地。入っちゃいけない土地。
「もう、ここには住まないでください」さっそく、役人が言いにきたけど、オレは住みつづけたよ。
「だって、牛にエサやらないと。オレ、牛飼いだからさ」
5月こんどは、20キロ圏内にいる牛を「殺処分」にすることが決まった。
世話をする人間がいない牧場で、牛たちはいずれ餓死をする。
牧場から逃げた牛が畑を荒らしたり、やっかいなこともある。
どうせもう食えない牛だし、殺すことにしたってこと。
「牛たちの殺処分に同意してください」
また役人がきたけど、オレは同意しなかったよ。
うちのほかにも、殺処分をこばんだ牧場がある。
でも、ほとんどの牧場主は、しょうがなく同意した。
その人たちから、オレ、言われたよ。
「オレらは、泣く泣く、牛を殺した。なんでお前だけ生かしてる?」
その気持ちも、オレはわかる。ほんとは、だれだって、殺したくなかった。
大事に育ててきた牛だ。涙をのんで、国の決定に従ったんだ。
でも、オレはそうしなかった。
売れない牛を生かしつづける。意味がないかな。バカみたいかな。いっぱい考えたよ。
「オレ、牛飼いだからさ」
当たり前みたいに言いながら、その当たり前のことを、毎日、一生懸命、勝ちとってる。
意味をなくしたのは、牛だけじゃないぜ。
町のみんなが住んでた家。子どもたちが通ってた学校。おいしい米がとれる田んぼ。
魚の泳ぐ海や川。きれいな空気。じまんの星空。
すべてが意味をなくした。
そこに、目に見えない放射能があるってだけで、町のみんなの故郷がきえた。
売れない牛に、毎日、エサをやる。
儲からないのに、金だけかかる。栄養があるエサはもうやれないから、弱い牛は死んじまう。
それでも、いま、うちの牧場には360頭もの牛がいるんだ。
原発事故のまえよりもふえてる。ふしがだろ?
答えは、かんたん。近くの牧場主からたのまれた牛や、迷子になってた牛を、うちの牧場で引き取ったんだ。
少しづつ、協力してくれる人たちもあらわれた。
福岡。広島。岡山。大阪。京都。北海道。
いろんな所から人がくる。牛たちの世話を手伝ってくれる人。
エサやお金を寄付してくれる人。
大型バスで牧場を見学にくる人。
「希望の牧場」。
いつしか、うちの牧場は、そんなふうに呼ばれるようになった。
人間がきえた土地に、何百頭もの牛が生きてる。
もりもりエサ食って、元気に動きまわってる。
その姿に「希望を感じる」って人もいる。
希望なのかな。希望になるなら、いいけどな。
けど、弱った牛が死ぬたびに、ここには絶望しかないような気もする。
希望なんてあるのかな。意味はあるのかな。
まだ考えてる。オレはなんどでも考える。
一生、考えぬいてやる。な、オレたちに意味はあるのかな?
人間の影や声、足音をなくした町。それでも、春がくれば花がさく。
夏がくればホトトギスがうたう。秋がくれば紅葉が燃える。
冬がくれば雪もよう。
美しい景色はかわらない。
海があって、山があって、いいところなんだ。オレの町。
いつかまた、人間の影や声がもどってくるのかな。
希望はあるのかな。
中略・・・・・
明日もエサをやるからな。もりもり食って、クソたれろ。
遠慮はいらねえ。おまえら、牛なんだから。
オレは牛飼いだから、エサをやる。
決めたんだ。おまえらとここにいる。
意味があっても、なくてもな。
前文をご紹介できなくて残念です!
この文は、福島第一原子力発電所の警戒区域内に取り残された「希望の牧場・ふくしま」のことをもとにつくられた絵本です。今、餌不足の問題が深刻化していくなか、今も牛たちを生かすための取り組みが続いています。
人間が犯した最大の過ち・・・・原子力。未だにその過ちに両目をつむり、同じ過ちを繰り返そうとしています。
福島を忘れないでください。
CM
TB
大きな屋根はありません。広い境内もありません。ここには、仏さまの慈悲があります。
悲しい事は半分に。嬉しい事は倍に。あなたのお話しお聞きいたします。
どうぞ、お尋ねください。
Author:山里
色々な事に興味を持って不器用だけれど拘わっていきたいなぁ❢
写仏・写経を一緒にしませんか?
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